この感想の冒頭には毎回、ドラマとは離れて私が言いたいことを勝手に書いているのですが、「心中」という言葉があるとどうしても、好き勝手に書くのを控えてしまいます。
心中は、誰かと誰かが一緒に自殺することだからです。
生と死。
タイガー&ドラゴン第10話では、様々な二項対立が描かれます。
虎児……ヤクザの道と噺家の道
竜二……服屋の道と落語家の道
メグミ…東京の生活と青森への帰郷
世界には様々なものが無数に存在しているように思うことがあります。
でもドラマとか映画や小説では限られた時間・ページで伝える必要があるから、物事を二つ(くらい)の側面に絞って対比を描く。
善と悪。(左と右)
勝ちと負け。(上と下)
光と影。(表と裏)
二項対立で描かれるけれど、それは無数のものから選んだ二つであって。
人は無数の物事の間を生きているから、人間といいます。※
(※すみません嘘です。いま考えました)
心中。生と死。
二項対立で考えてしまうと、どうしても横軸的になります。
生―――――自分―――――死
こんな感じに。
でも私たちは、生と死の他にも色々なことに直面して生きています。
楽しいこと、むかつくこと、どうしようもないこと、うれしいこと等々。
長くなってしまいました……
(しかも、さっきから宗教の話みたいになってないか不安を感じてます)
横軸ではなく、例えば球体とか立方体のイメージ。
心中ではなく、中心。
自分を中心に、全方向に物事や出来事が広がっている。
その広がりの一部に生と死というのもある。
そんな風に考えたなら、心中も逆さまにできるかもしれません。
第10話 あらすじ
第9話に登場したウルフ商会。
ウルフ商会はどんどん勢力を拡大しているようです。
そんな中、虎児(長瀬智也)にウルフ商会から引き抜きの話がきます。
虎児たち新宿竜星会が解散しないためにはどうするべきか。
組長への恩返しと林屋亭どん兵衛の継承、虎児は二つの道のどちらを進むのか――
登場人物
■山崎虎児(長瀬智也)
主人公。
新宿竜星会の存続と林屋亭どん兵衛の継承。
虎児が進む道は、どっちだ!?
■梶力夫(橋本じゅん)
ウルフ商会の首領(ドン)。
虎児たち新宿竜星会を潰そうと企んでいる。
■保(菅原大吉)
メグミの元夫。
練炭自殺に巻きこまれたメグミを救う
品川心中について
品川新宿の女郎屋でナンバーワンのお染。
しかし、歳とともに客がだんだんつかなくなり、若い女郎にまで金のないことを馬鹿にされる始末。
いっそのこと死んでしまおうと考えた。
ただ、見栄があるから金がなくて死んだなどとは思われたくない。
そこで、誰か相手を見つけて心中しようという気になった。
お染が選んだのは金蔵という独り者のお人好し。
お染から手紙をもらった金蔵は、すぐに飛んできた。
お染「四十両の金ができないから死にたい、一緒に死んでくれ」
そう頼まれた金蔵。
自分の力ではどうにもならない金額だから、わりにあっさりと心中の相手を引き受ける。
心中の決行は明晩ということになり、お染は気が変わらぬようにと、その晩はひときわ濃厚に金蔵の相手をした。
翌日の夕方、家の始末と世話になっている親分への挨拶をすませた金蔵が、品川に戻ってきた。
ところが心中のために用意した刃物を親分の家へ忘れたことに気づく。
そこで二人は、裏の海に飛びこもうとなった。
金蔵が先に海に落ちる。
次はお染が海に落ちる番……だが、店からお染を呼ぶ声がする。
馴染みの旦那が金を持ってきてくれたのだ。
金ができたから死ぬことはないと言われたお染。
「堪忍してね」と海に落ちた金蔵を置き去りに、あっさり店に引き返してしまった。
海の中にいた金蔵、悔しまぎれに足を伸ばすとなんと膝までしか水がない。
遠浅で死ぬどころか、着物がビシャビシャになって風邪をひいただけ。
岸へあがった金蔵は、帰る家もないので親分の家へいくことにした。
やっとの思いで親分の家に着き、表戸をドンドンと叩いた。
間の悪いことに親分の家の中では花札賭博の真っ最中、手入れと勘違いして上を下への大騒ぎになる。
(長い噺なので、この部分にサゲを入れて噺を終える演出が多い)
金蔵とわかって安心した親分。
話を聞いて仕返しの芝居を思いついた。
まず金蔵がお染のところへ生き返ったと顔をだす。
その後から親分がいき、夜釣りで金蔵の死体がかかったから通夜にきてくれと言う。
親分「お染はそんなはずないというだろ。で、通夜にいくと部屋に位牌があるって寸法だ」
その企みにまんまと引っかかったお染。
親分から「金蔵を成仏させるには髪を切れ」と言われ、仕方なく髪を切って差しだす。
ここでサゲ(噺の落ち)。
隠れていた金蔵がお染の前に姿をあらわす。
金蔵「仕返しだい」
お染「ちくしょう、髪を切らして、明日から商売ができないじゃないか」
金蔵「へん、あんまり客を釣るから比丘にされたんだ」
(魚のビクと尼の比丘をかけて)
※参考文献『古典落語100席』選・監修者:立川志の輔(PHP文庫)
タイガー&ドラゴンの品川心中
こちらについてはここで書かずに、DVDやParavi(パラビ)などのサイトで実際に視聴していただきたく存じます。
決して、文章を書き疲れたからじゃあ、ございませんからね。
最終話目前の第10話にしてようやく、竜二(岡田准一)は林屋亭に再入門します。
「自分のために(落語を)やりてえ」と竜二は高座にあがります。
メグミが自殺サイトとか練炭自殺に巻きこまれるのは、放送時の時節柄でしょうか。
自殺志願の男たちを救ったのは、メグミの美貌でした。
保がメグミを抱っこするまでのドタバタは見ものです。
ウルフ商会の手により、新宿竜星会の事務所は襲撃されてしまいました。
日向さん(宅間孝行)も襲われて入院。
襲撃された事務所に駆けつけた虎児は、身につけた腕時計を外します。
師匠であるどん兵衛(西田敏行)の大事な腕時計です。
腕時計を外して、ウルフ商会の事務所へ向かった虎児。
「アニキじゃねえだろ、虎だよ!」
新宿竜星会の二代目となる銀次郎(塚本高史)を逃がして助ける虎児のセリフが胸に響きます。
警察に逮捕されて笑みを浮かべる小虎(長瀬智也)。
小虎が逮捕される報道、そのテレビ画面を見つめるどん兵衛の涙。
小虎の笑顔とどん兵衛の涙の対比に感動できる私は、生きていて良かったと思いました。