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【本】上田岳弘『ニムロッド』感想

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■上田岳弘『ニムロッド』
(2021/6/3)
芥川賞受賞作品。
あまり整理しないまま感想を書いてみる。

CPUサーバーを管理する仕事などをしている会社、に務める僕が主人公。僕は社長から仮想通貨、ビットコインを獲得する部署を任じられ(一人で)ビットコインを採掘することになる。その僕の名前は中本哲史で、ビットコインの理論を生みだしたサトシナカモトと同姓同名。

作品の主要人物は僕の他に、僕と付き合っている田久保紀子と、僕と一緒に仕事をしていたが現在は名古屋に異動しているニムロッド。ニムロッドは小説家志望で、新人賞に三度最終選考まで残りながら落選して、塔を目指すのを諦めた人のようにも見える(ニムロッドの場合は、塔を勝手に自分の中で設定してしまった人、という感じか)。

塔とは、かつてのバベルの塔であり、人類の英知や知恵の普及がもたらしたものでもある(この作品にはiPhone・LINE・Wikipediaなど、そうした人類の進歩が頻出する)。富・ビットコインをより多く採掘するにはより多くのCPU(資本)が必要で、でも僕の部署は社内でもそれほど注力されていないから、ビットコインの採掘量はあまり増えていかず、縮小していってしまう。

仮想通貨、ビットコイン、富、資本主義(作中に出てくる”あのファンド”はよくわからないから資本主義という風に置き換えたが)、その富の量(田久保紀子のように、いい家の人間はいい会社に入ることができる)……一方でいい会社に入っていい夫と結婚しても生まれてくる子どもまでは(現代では)コントロールできなくて田久保はかつて夫との間に子を宿したがその子の染色体に異常が見られたため堕胎した。

ダメな飛行機とか、僕の左眼から勝手に流れだす涙とか、サリンジャーとか、田久保の不安とかお守りとか、サトシナカモトと同名の僕は田久保やニムロッドたちから「君は何も知らない」と言われていつもWikipedia(他者の知恵)に頼っていたりとか――これは自分がイマイチ理解できていないからだろうが、この作品は”っぽい”要素を盛りこみまくっていて、僕の主観とダメな飛行機・ニムロッドが著した小説が短く交互に組み合わされた内容は、物語というよりは頭のいい人(塔の存在に気づける人、塔に登れる人)の述懐にみえなくもない。

と書いて、この作品は塔の頂を目指すことやより高い塔をたてることの虚しさ(それについて行けない人)あるいは危険性?を描いていたのだろうかと思った。

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