以下、過去の記述より。
カッコ内は私が読み終えた日付です。
抱擁家族
(2012/10/11)
妻の情事(ジョージとの)を契機に崩壊していく家庭、その中で「家をなおすこと」ばかり考え苦悩する夫(三輪俊介)。
作中に繰り返される悲劇と喜劇は現実的である。が、最も現実的なのは登場人物たちの言葉(会話)や彼らの思考だ。
人間は必ずしも整合性のとれた会話をしない(会話なんてのは、ほとんど一人ずつ言いたいことをいっているだけだ)し、ひとつの物事だけをいつも考えたり、思考と行動は全く関係がなかったり――あるいは、どこか遠くで関連していたり――、、、そうした「本当の日常性」が描かれている。
それは可笑しかったり怖かったりで、超リアル、だ。
うるわしき日々
(2012/11/11)
『抱擁家族』の30年後の世界。
世界と書いたが、本作では年を経た三輪俊介と再婚した彼の妻、アルコール依存症で入院を要する息子の良一のみでなく、作者である小島信男も容赦なく(と言うのはおかしいが)介入する。
作中いきなり、村上春樹と河合隼雄の対談本について触れたりしている。
主人公の状況は『抱擁家族』以上に危機的で不安定だが、やはり著者は単純な悲劇ではなく、どちらかといえば喜劇的に描いてみせる。
また、新聞連載作品らしい展開もみせている。
墓碑銘
(2012/11/22)
アメリカ人の父親と日本人の母親のもとに生まれたトーマス・アンダーソンこと浜仲富夫=「私」の語りによる物語。
見た目はアメリカ人の日本兵を描いた戦争文学、の当作品は素晴らしい。日本人とアメリカ人の二項で対立する人間を描いたことでなく、「アメリカ人にしか見えない人間と接する」人間(作中の主な日本人たち)と「アメリカ人の風貌を持つ”日本人”」の人間を描いた点が。
主人公は「アメリカ人の見た目を持つ日本人」という人間でしかない。だから主人公は差別されたり、一人の人間として兵役を務めたり、妹の良子と(禁じられた)恋をしたりする。
物語として、観点として素晴らしい小説。
美濃
(2012/12/16)
長かった……。
読了はしたが、この小説を全く読みきった気がしない。ちなみに、内容は全然面白くない。現代の頭の悪い読書好き(俺)は、この作品の「内容」を楽しむことはできない。
が、私小説とメタ小説が混在したような、また様々な道へとひろがっていく会話など、小説作法としては興味深い作品だった。
解説は保坂和志。
日光・暮坂 小島信夫後期作品集
(2013/1/8)
著者の後期作品の特徴は「波紋のように拡がる」点だろう。
冒頭の内容から、一転・二転……と話がひろがっていく。
想念の浮かぶままに書く(そういう風に書いたように見える・見せる?)、というのは一見「楽をする」とか「テキトー」と思うが、微細にわたる記憶や描写のできる著者だから可能な手法だと思う。
また、思いつくままに書く(書けてしまう)というのは、一般的な感覚からすると実は恐ろしいことでもある。
公園 / 卒業式 小島信夫初期作品集
(2015/1/7)
「ふぐりと原子ピストル」という作品、ふぐりは金玉袋で原子ピストルは警察の武器――富や名声、権力をメタファー化した内容で面白いが、巨大なふぐりをぶら下げているって描写は、ハチャメチャすぎるだろう。
著者の中学校時代に書かれた作品もおさめられていて、文章力・表現力や完成度の高さに驚いてしまう。
著者特有の滑稽さ(=登場人物への冷めた眼差し)も顕在。