以下、過去の記述より。
カッコ内は私が読み終わった日付です。
人間滅亡の唄
(2012/10/25)
エッセイなのか何なのか、何とも不思議な作品。
≪人間が生まれることは『屁』と同じ≫と言ったり、いきなり話がとんだり。
面白え。
「日本遊民伝」の中で≪ほんとオ≫と連呼するのはフザけているのか真面目なのか、笑ってしまう。
他には出身地やギター、映画の話だったり。畑に一日でプレハブを建ててそこに住む話(実話)など。
著者の有名作品『楢山節考』を読んでみたくなった。『笛吹川』も。
笛吹川
(2013/2/14)
甲州の笛吹川沿いの農民一家の物語。読みやすく、面白い。
興味深いのは、この作品が小説を読む人々から最も遠そうな――決して文学など読まなさそうな――人たちのお話ということ、作者の中(「意識的に」のみでなく、身体と心に染みついたような)に作品世界全てが”出来あがっている”ことだ。
甲州弁の口語や≪えーっ!≫というあまりにも率直な言葉が良い。
「おけい」の生き様は、とても力強い。
甲州子守唄
(2013/2/25)
笛吹川そばのオカア一家の生き様を描いた作品。
『笛吹川』と同じ土地・言葉づかい(甲州弁)の似通った作品だが、『甲州子守唄』は明治末から昭和(昭和戦争後まで)の時代。
生糸、農家、百貨店、アメリカへの出稼ぎ、ヤミ……と、経済小説的な面もある。
その場その場で感慨にふけるオカアの視点と、客観的な著者の視点が入り混じり、奥深さを生みだしている。奥深さ、以前に面白さがくる。面白い、が金や物に対する虚しさは終始漂っている。
花に舞う・日本遊民伝 深沢七郎音楽小説選
(2013/10/10)
著者のなかでも音楽にまつわる、作中に音楽に関する記述がでてくる作品集。「日本遊民伝」は『人間滅亡の唄』で一度読んだことがあった。
「浪曲風ポルカ」「江戸風ポルカ」や「木曾節お六」の戯曲など、作家と音楽家をともに高レベルでこなす著者らしく、作品の幅もひろい。
もちろん小説も面白い。
二、三十年前に書かれているのに現代でも面白いのは、単純にすごい。し、笑いの本質があるのだろう。
楢山節考
(2014/1/7)
姥捨の物語。
著者の文章や語り口は笑ってしまうほど面白いのだが、物語の底には常に(死に対する)虚しさがある気がする。
山へ捨てられた後の老婆――おりんは、雪を降らせた――、今だけの青春を生きるプレスリーを聴く若者たち(彼らの未来にあるのは、大人という「死」である)、精神を病んでいた妻、どの作品にも肉体的な死を越えたところにあるような、虚無=死が表現されている。
作詞作曲の唄まで収めるあたりは流石。