スポンサーリンク

【本】野坂昭如の本の感想

スポンサーリンク

野坂昭如さんの小説作品で最も有名なのは『火垂るの墓』です。
『おもちゃのチャチャチャ』の作詞が野坂昭如さんなのは、知られているようで知られていないかもしれません。作家、歌手、作詞家、タレント、政治家、大島渚監督を殴った人――ご自身の才能を発揮されまくった方です。

以下、過去の記述より。
カッコ内は私が読み終わった日付になります。

エロ事師たち

(2013/12/5)
著者の小説処女作品。

自らをエロ事師と称する、スブやん。
エロ事師とは、何でもエロ斡旋屋。

大阪弁による会話・騙りが大半を占める、流れる水のような――作品に即した言い方なら、垂れ流す小便ってところか――文章。

文学的にしようとか高尚なことを言おうという気概は微塵も感じられず、だからこそ心地よい。

スブやん、(血のつながりはないが)娘の恵子を抱こうとした夜からインポになってしまうが、亡くなったとき恵子が目にしたのはそそり立つチンコであり、顔ではなく性器に白い布をかけられるのも彼らしい姿。

東京小説

(2013/12/9)
東京を舞台にした断片的小説集(「東京小説 〇〇篇」)。

ストーリーや構成、キャラクターも良いが、印象に残るのはブラックユーモア的なセンス。「友情篇」や「夢の島篇」のオチにそれが顕著に描かれている。

「相姦篇」の兄妹の愛は、禁忌に触れた恋愛で興味深く読んだ。同時に、兄妹が仕掛けた親類への罠が、二人だけの世界の強度を上げる。

解説を町田康が書いていて、そちらも良かった。

アメリカひじき・火垂るの墓

(2013/12/12)
直木賞受賞作。
戦後の”焼跡闇市逃亡派”を自称する著者でないと書けない短編たち。

アメリカ、とりわけ進駐軍にコンプレックスを抱く男を描く「アメリカひじき」。その主人公は戦後の日本だ。

真夜中のマリア

(2013/12/19)
エロ小説。
語りが凄まじい。

性と死――とりわけ家族に対するそれ、近親相姦と両親あるいは兄弟姉妹の死が、底のほうに常に流れている。小気味よいテンポの文章や会話の中で急にハッとさせられる所以だろう。

著者の作品では女性が常に性に興味を持っており、また家族同士で卑猥な話を恥ずかしげもなく行うのは、どうしてだろうか。

終盤、主人公カンの身体はみるみる縮んでいき、やがて亡き母親の胎内(自身の起源)へと還っていく。

受胎旅行

(2013/12/26)
子どもがほしいとノイローゼになった妻と種つけ馬として生きる夫の虚しさを描く表題作など、10の短編作品集。

「受胎旅行」の最後、妻のピンクのネグリジェが桜の花弁のように散る様には、どうしようもない虚しさ、悲しみが深々と滲んでいる(どの短編作品も)。

「パパが、また呼ぶ」のように、親への憧れ、愛情を受けることだけを望む野坂作品の子どもはいつまでもそれを捨てきれずに彷徨う。

「猥談指南」も面白い。

エロスの妖精たち

(2014/1/2)
12の短編作品集。

結婚指輪を失くした夫が奔走する「厄介な指」。夫婦水入らずで過ごす日をもうけるための旅行「修正旅行」、5人の男と寝る女「ペンタガール」、子どものできない夫婦の「うすい関係」など。

男女の本性を暴きだすような作品たち。
とある家庭、その夫婦や親子だけが抱えているような事柄を見事に描いている。

野坂昭如ルネサンス(岩波現代文庫)

シリーズ。
表紙の和田誠のイラストがとても良い。

好色の魂

(2014/8/25)
野坂昭如ルネサンス①(岩波現代文庫)

好色本を発刊し続けた男、貝原北辰の生涯。この主人公は性文献の出版で有名な梅原北明(1900-46)がモデルになっているらしい。

政府や警察に取り締まられながらも、発刊を続ける北辰。彼の原動力や生き様は、読んだ感覚によってしか味わえない(俺には言葉にできない)。
流れるような文章。

水虫魂

(2014/10/1)
野坂昭如ルネサンス②(岩波現代文庫)

著者の自伝的要素を含んだ長編作品。

CMソングの作詞や芸能プロダクションに関してずっと描いてきた。そう思ったら終盤、主人公・寺川友三の一人息子の伸一が交通事故であっけなく亡くなり、出版経営に身を移した友三。ラストでは子どものための「焼跡ランド」などというものを、本気でつくることを考えている。

「焼跡ランド」構想が荒唐無稽だと感じさせないのは、友三の経験と思考を軽妙ながらも力強い文章で書いたからだろう。

マリリン・モンロー・ノー・リターン

(2014/11/4)
野坂昭如ルネサンス③(岩波現代文庫)

表題作。
主人公の実生活と美しいマリリン・モンローを想う主人公の想像や恋慕のコントラストが良い。

「娼婦三代」
「母陰呪縛譚」
「不能の姦」
この3作では、嫌というほどに”性”が描かれる。

社会からはみ出した男たちが死に際の人々を世話する「死の器」はユーモアがありつつ、少しおそろしくもある。

騒動師たち

(2014/12/12)
野坂昭如ルネサンス④(岩波現代文庫)

釜ヶ崎のアンコ(アンコはその日暮らしの人々への差別用語ともされる)のケバラ(”ゲバラ”ではなく、毛腹だから”ケバラ”)、イカクン、バロクらが題名通り騒動を起こしていく。

ケバラたちの騒動に目的はなく、ただ楽しむため、また戦後の騒がしさを再び取り戻すための騒動である。生放送のテレビをめちゃくちゃにしたり、東大安田講堂に乗りこみ最後には爆破させてしまう。
かなり面白い作品。

とむらい師たち

(2015/1/29)
野坂昭如ルネサンス⑤(岩波現代文庫)

「とむらい師」のガンめん(デスマスク作製者)やジャッカンたちは、人が死んで行われる儀式=葬儀を商売にして、やがてガンめんは”葬儀博”の実現を望むようになる(著者の作品は、スケールが大きくなると物事を万博化する傾向がある)。

この作品を読んでいる間、読者は死について考え続けることになる。

物語の最後、ガンめんは大きな穴(生命の根源=母のなか)へと帰っていく。彼は「生」の源で「死」を迎える。

骨餓身峠死人葛

(2015/3/10)
野坂昭如ルネサンス⑥(岩波現代文庫)

ほねがみとうげほとけかずら。
仕事の繁忙期に読んだため、内容が全然頭に入ってこない……。

死人。
近親相姦。
「ふいなーれ」はフィナーレの意。

童女入水

(2015/4/18)
野坂昭如ルネサンス⑦(岩波現代文庫)

表題作では、母親の虐待により入水自殺した娘、と母親の生い立ちを描く。非常に重いテーマの作品だが単純に重々しいだけにならないのは、著者が得意とする笑い、が発展した滑稽さを含んでいるからだろうか。

★☆★☆★
2015年12月10日
作家の野坂昭如が亡くなった、とニュース。
色々なことをした、人。
作家、政治家、役者、歌手――先日、水木しげるが亡くなったが、彼らの作品は世界に残る。遺される。

タイトルとURLをコピーしました