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【連作コラム 見上げればドコモ尻(4)】腸のバリウム検査

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バリウム検査 コラム

検査のための衣服に着替える。

お尻の部分だけ丸い穴のあいたパンツ。お猿さんのコスプレ? それにしては猿の毛色とはほど遠い。「服というのは人間の尊厳の最低限の部分を守っている」わざわざそんな風に意識したことはないのに、お尻に穴があいたパンツ――隠したい部分こそ隠せない仕様の衣服――を目にしたボクは気恥ずかしさを覚えた。

中学と高校の間に何度か胃腸炎で入院をした。ボクはお腹が弱い。
なので、大学病院で大腸のバリウム検査をすることになった。胃のバリウム検査ではバリウムを飲むけれど、大腸の場合はお尻からバリウムを入れる。

高校2年生のボクは17才で(2月生まれなので本当は当時16才だったけれど、青春感を出すために17才(セブンティーン)と書きます)初のバリウム検査を経験した。17才といったら、恋人ができて手をつないだりキスをしたり、あるいはその先までイケたりイケなかったり、ワルぶってタバコや酒に手を出してみたり――そういう”初めて”こそ17才が経験するものだと思っていたのに、ボクの”初めて”はお尻の穴から管を挿入されて体内にバリウムを注入されるという、青春からほど遠いものだった。

肛門部分に穴のあいたパンツに足を通したボク。検査室の台で横になると間もなく検査が始まった。管が入るのは、それほどキツくなかった。ただ、バリウムを注入されると猛烈な違和感が走った。

「ヤバい! ヤバいです先生! ヤバいヤバいッ!!」ボクが叫んだ瞬間、それまで忙しなく動いていた担当医と看護師4人の手がピタっと止まり、台の上で寝そべるボクを見た。

「どうかされましたか?」

担当医の冷静な声は、冷酷な声となってボクに響いた。身体を横たえたまま見上げると、目があった。目が合ったのではなく、在った。担当医と看護師たち複数の目目目が何も語ることのない真っ黒な瞳でボクを見つめていた。その目を見たボクは、何だか恐ろしいものを感じてしまい「あっ、あの……何でもない、です。大丈夫です続けてください」としか言えなかった。

(ボクはこの、自分が寝そべったまま複数人の目に見つめられる経験をこの検査のときと、あと職場の救命講習の際に担架で運ばれる役をやったときの二度体験している。AVとかで複数名を相手にセックスするのがたまにあるけれど、ああいうときに演者の方が見ている景色はこんな風に目に囲まれているのかなあと思ったりもした。自分が寝た状態で複数の目に上から見つめられるというのは、言いようのない恐怖を与えられる)

続行されたバリウム検査は順調に進んだ。バリウムを腸内に行き渡らせるため、ボクが横たわる台は右に左に傾いて、ささやかなアトラクションのよう――そう思うほどの余裕はなかった。耐。

検査を無事に終えて、お尻に穴のあいた検査着を脱ぐ。このパンツはこの検査のためにあるパンツだというのが、実際に履いて検査を受けた後ようやくわかった。

検査後はバリウムを体内から速やかに排出するため、下剤を飲まなければならない。ボクに出された下剤は液を飲むタイプで、かなりの量、350㎖の缶ジュースくらいあった(記憶を盛ってるかもしれないが、少なくても200㎖以上はあった)。

この下剤がマジで不味い。マジ不味い。透明な液体でトロトロしていて、何だか酸っぱい。しかも我慢してグイっといける量じゃない。量おおすぎ!

ボクはゆっくりとその液体を飲んだ。量が多いから、何度も飲んだ。あれから17年経ったけれど、ボクはこれほど不味い飲み物を未だに知らない。

検査の結果、ボクの大腸に異常は見られなかった。安心した。不味い下剤を飲み終えてすぐに吐いてしまうという、青春真っ只中の17才には似つかわしくない初体験が、代償として異常なしの結果をくれたのかもしれない。

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