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【創作】ビッグマウスくん

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今日、ウチの部署に新人がやってくる。
聞くところによると、20代後半の男性で、かなりの「ビッグマウス」らしい。
ビッグマウスといえば、サッカーの本田圭佑選手が浮かぶが、新人くんはどんな感じだろうか。
ただ生意気で未熟な若者(言い方がヒドいな)でなければいいが。

始業のチャイムが鳴って間もなく、私と事務の佐補斗さん(40代女性)がいる部屋のドアが開く。
社長(30代のイケメン)に続き、痩身で背の高い男。最近の若者は、背の高い人が多い。

私たちの前にくると、社長が新人くんに耳打ち。新人くんはハッとして、すぐに顔面を覆う大きなマスクを外す。
韓国アイドルのオフショットで見るような、真っ黒いマスクだった。
(おいおい、そんなの入る前に、ってか社長と会う前の時点で外しとけよ)

「本日からお世話になります。新入社員の尾久間ウスです。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
顔を上げて大きな声での挨拶。
しっかりした若者のようだな――そう感じた刹那、驚愕が身体を走り抜ける。

口が、デカい。
めっちゃ大きい。

今まで目にした人間にはいなかった。
顔の下半分は口じゃないか。いやそうだ。ともすれば、鼻が目と目の中間に位置している。

いや、鼻の位置はいい。今は口だ。
とにかくデカい。こんな人間が同じ日本に、地球上にいたのか。
漫画『GTO』に出ていた、鱶田ちゃんという女子を思い出した。(知ってる方は少ないだろうが)

ビッグマウスって、、、そういうことかよ。
ガチのほうじゃん。

佐補斗さんと私が挨拶すると、新人の尾久間くんとそれぞれ握手を交わす。
私との握手の後、尾久間くんの大きな口が開く。

「ボクはこの会社をGAFAに対抗できるような組織に、あっ!GAFAってご存じですかね。流石にそれはダイジョブか。えっと、ビジネスチャンスを掴みまくって、世界的な企業にしたいと本気で考えてます。ボクは上しか見ていません」

明朗に言った。
濁りひとつなかった。
後に風俗通いになる奴が「俺は風俗には行かない。ああいうのは違う」と熱弁していたころのような、真っ直ぐな瞳をしていた。

本当に、ビッグマウスだった。
いや、どちらもビッグマウスだ。見た目の口と大口を叩く意とで、二重のビッグマウスだ。

熱意のある、いい若者だな。そう思った。
彼なら、ウチの会社をビッグにしてくれるかもしれない。

ただ、ウチの会社は社長と佐補斗さんと営業の私の3人しかいないのだが。
GAFAにはほど遠いんだ、尾久間くんよ。

とりあえず、後で一緒に昼メシを食べよう。
温かいうどんか、中華なんかがいいかもしれない。
いや、シンプルにおにぎりが尾久間くんのマウスに入るところを見てみたい。
たとえ大きなおにぎりでも、彼なら、彼の大きな口なら、あの愛くるしいカービィのように吸い込んでくれるだろう。

ひょっとしたら、彼のビッグマウスがウチの会社を世界に導くかもしれない。
拳骨をくわえこむ特技をもった、新撰組局長のように。

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