もし自分の本棚から3冊しか残せないとしたら、この本は確実に残す。それほど、自分の心を動かした作品。
以下、過去の記述より。
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■町田康『告白』(2010/7/20)
明治時代に実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフにした作品。自身の思弁と行動が一致しない男「城戸熊太郎」の物語。
「あかんではないか。」で始まるこの小説は、熊太郎が最期に言う台詞「あかんかった」で締めくくられる。この「あかんではないか」は誰が述べたのか、けっこう考えたけれど、わからなかった。
作者によるツッコミ、天空あるいは神の声、それとも熊太郎自身の思弁の奥底からひょこっとでてきた言葉なのか。多くの人は作者(あるいは第三者)の台詞だと言いそうだが、熊太郎自身の中にある言葉だったら――そんな風に思ってしまう。
著者の作品は(相変わらず)滑稽な場面が度々ある。
本来なら真剣・マジであらなければならない場面、”ハイライトだぞ”と思われるシーンが、滑稽に塗れていることが度々ある。
それが最高。
熊太郎が罪を後悔している描写に、著者独特の人物名「葛木ドール」とか「葛木モヘア」なんて書かれているのを目にする度に、思わず”くすり”と笑ってしまいそうになる。
残り数十ページのところで、「河内十人斬り」について調べてしまったのだが、最後まで知らないままで読みたかったとも思う。
800ページ超あるのに、もう一回読みたいと思わせる超素晴らしい作品。今まで読んだ本の中でも1、2位を争うほどだと断言できる。
森本トラという守銭奴の婆(縫の母)が「銭!銭!」と常に言っているが、これは最も的確かつ難度の高い表現だと思う。
マジ、すげぇよ町田康。
死ぬちょっと前に、熊太郎が弥五郎に”自分の思っていることをそのままに”話してみる――それさえも熊太郎の中にあった思いではなかったのだが――シーンがあるが、その直後、熊太郎を無視して敵陣に突っ込んでいこうとした弥五郎が熊太郎に対し何を思ったのか/何も思わなかったのか、気になる。
■町田康『告白』(2012/5/17)
再読了。
「人はなぜ人を殺すのか」――城戸熊太郎の生涯を描いた傑作長編(800ページ超)。本当に素晴らしい、エンターテインメント・文学作品。
人間は利己的な自己の世界と自分以外の人間たちの利己的な世界が混ざった社会に生きていることを痛感する。そのような社会で、広い社会を知らない者、とりわけ自身の内側で「渋滞」する思弁を言葉にできない者は、おかしな奴・あかん奴とレッテルをはられてしまう。
それが主人公の熊太郎。
言葉で自己をアピールできない人間は、悲しみに沈み、やがて開き直りどうでもよくなってしまう。
それが熊太郎。
自分の思弁を理解されない(弥五郎も熊太郎が殺めてしまう)と悲嘆にくれた城戸熊太郎だが、著者の手によりこの『告白』の主人公・城戸熊太郎は救われたのではなかろうか。
読んだ俺の中に熊太郎の思弁も言葉も残っているのだから。
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