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【本】村上龍『歌うクジラ』感想

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『歌うクジラ』が発売されたのは2010年でした。
紙の本に先行して電子書籍が刊行されたのが、当時の話題になった記憶があります。
※私は文庫版になってから購入したので、だいぶ後に読みました。

以下、過去の記述より。
カッコ内は私が読み終わった日付です。
※ネタバレを含みますので未読のかたはお気をつけください

歌うクジラ(上)

(2017/1/13)
2122年が舞台の未来SFディストピア小説。

主人公タナカアキラは父親が残した人類の秘密を握るデータを手に、社会を創造した人物に出会うための旅にでる。

人間の世界は徹底的に階層化されていて、主人公は新出島という流刑地で生まれ、そこで出会ったクチチュという被差別民のサブロウさんとともに橋を渡り旅にでる。

著者の想像力が――想像(力)というのも、この作品の大きなキーワードのひとつだ――未来の予想図を描き、SF的ながらもリアリティのある世界に圧倒される。

下巻に続く。

歌うクジラ(下)

(2017/2/1)
アキラ少年の旅は宇宙へ。

アキラが目指していた老人施設とは、金や権力のある人間たちが住む宇宙空間の別称で(医学の進歩によって宇宙に住む人々は百歳を超えるような人間ばかりだ)、そこで彼は階層化が徹底された社会を創造した人物のヨシマツと出会う。

アキラが新出島から続けていた行動はヨシマツに仕組まれたもので、ヨシマツがアキラの脳を取り込むためのものだった。
ヨシマツに脳を奪われそうになって、アキラは生きたい、自分自身として生きたいと強く思う。

アキラの旅は元々、彼が自発的に行動しようとして始まったのではなく、(偽の)父親から課題を与えられたことに端を発する。アキラには基本的に欲求がない(性欲を抱く描写は何度かあったが)。

その彼がヨシマツとの対決で、生きたいと思ったことに感動を覚える。

欲望をきちんと認識できない少年が、強烈なほどの本能を獲得する。宇宙の闇の中で彼は大切なことに気づく。

≪生きる上で意味を持つのは、他人との出会いだけだ≫
≪そして、移動しなければ出会いはない。移動が、すべてを生み出すのだ≫

これだけ壮大な物語を作りあげたからこそ「移動」という言葉が力強さを持つ。

良い長編作品を読んだ。

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