リモコンを手にしてテレビの前で迷っている。どっちを録画するか。
①不滅のあなたへ(NHK Eテレ)
22:50~23:15
②ドラマ スパイの妻(NHK BSプレミアム)
21:00~22:55
重なる時間があるため、録画できるのはどちらか一方。2つに一つ。どちらにするか……。
、落ち着こう。こういうときはそれぞれのメリットとデメリットをあげて比べてみればいい。
■不滅のあなたへ
<メリット>
・『聲の形』という素晴らしい作品の作者、大今良時の漫画が原作だから素晴らしいはず。
・原作漫画を読んでいないぶん、アニメを楽しめる。
<デメリット>
・全20話らしいので、5ヶ月ちかくは続く。
・つまり、見るのに25分×20話分の時間がかかる。
■ドラマ スパイの妻
<メリット>
・黒沢清監督の作品が見られる。しかも脚本は濱口竜介と野原位(『ハッピーアワー』)。
・これを録画することで、全20話もある『不滅のあなたへ』を見ない言い訳にできる。
<デメリット>
・見るのに2時間を要する。
(2時間拘束されることになる)
番組表を表示してもテレビからは音声が流れる。どっちを録画すればいいんだ……。
「お得ですね」
「お得~」
「お得!」
画面は番組表のまま、AmazonのCM音声が流れる。お得の連呼。
(得得得得って、このCMで嫌気が生じるのは一体どうしてだろう?)
●
仕事を終えた帰り道。職場を出て駅に向かう。一つ目の角を曲がったあたりで、やり残した業務やもっとこうすれば良かった仕事を思い出すことがよくある。
ポケットから仕事用のiPhoneを取り出し、メール作成画面を開く。
題名:タスク
本文:朝一で〇〇やる!
自身の業務用アドレスにメールを送る。送信して間もなくiPhoneがメールを受信して震える。明日の朝に確認するべき、自分宛のメール。
(あの書類作成する前に、XXさんに根回ししてから作ったほうが効率いいな)
帰宅途中の電車で再びメールを送る。
題名:タスク2
本文:報告書作成、XXさんとネゴってから作成する!
仕事帰りの自分宛のタスクメールは4つ、5つになることもある。優先順位を整理したり、明日以降の自分がより効率よく仕事を進めるためのメール。
●
時間の重なる二つの番組のどちらを録画するか。
『不滅のあなたへ』を録画したら、これから全20話のタスクを課すことになる。
『ドラマ スパイの妻』を録ったら、明日以降2時間の拘束時間ができてしまう。
昔は良かった。
テレビドラマを見るのが大好きだった中学生の頃は、ほとんどのドラマの第一話を見て、そこから興味のあるドラマに絞って見ていた(それでもけっこうな数のドラマを見た)。
大学生になって深夜アニメを見始めると、面白そうなアニメはできるだけテレビで見た。たくさんのアニメをまずは見てみるのを春夏秋冬のクールごとに繰り返した。
あの頃は暇で時間があったから、ドラマやアニメを見まくることができた。できていた。
まあ今は、ハードディスクで簡単に録画して後で見られる。
●
仕事用のiPhoneはもう持っていない。
昨年末で会社を退職したから。
だからもう、仕事を終えた帰り道に仕事のことを思い出して自分宛のタスクメールを作成して送ることもない。
退職してから3ヶ月以上経った。
大きい仕事。
小さい仕事。
考える仕事。
こなす仕事。
色々な仕事の優先順位を整理して、効率よく仕事を進めていたころに戻るには時間がかかるかもしれない。
●
(ライフハックって、何ですか?)
●
片方を録画して、もう片方をリアルタイムで見ればいい!
そう気がついた。
そんな簡単なことに、どうして気がつかなかったのか。無職で時間だけはあるくせに。好きなテレビ番組は録画して後で好きなときに見るもの。いつの間にかそんな風に思いこんでしまっていた。
(お得と連呼するAmazonのCMに嫌気を催したのは、お得を求める自分に図星だったからかもしれない)
私は『ドラマ スパイの妻』を録画予約する。今日の22:50~23:15、私はテレビの前に座って『不滅のあなたへ』第一話に時間を捧げる。
時間を、捧げる。
その感覚も本当は失くしたい。「見たい」(比較級なら「見てぇ」)が先にあってほしい。
興味本位。でありたい。
録画予約を終えた。
とりあえず、すでに録画して見たけど番組後半でうたた寝したため内容がうろ覚えの『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』第二話をもう一回見よう。その後は「情報性・読後感ゼロのゆるふわロードムービー!!」を掲げる番組『ロバート秋山の市民プール万歳』を見てもいい。
時間は使うし、お得はないかもしれないけれど。