以下、10年以上前の自身の記述より。
カッコ内は私が読み終わった日付です。
阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』
(2009/12/29)
著者を「渋谷系」「J文学の旗手」として(あくまで文学の分野で)一躍有名にした作品。
肌を露出したお姉ちゃんが写った、常盤響によるお洒落なジャケット装丁が印象的。
著者は「形式的」「物語的」な作家だ。
主人公のオヌマがフリオ・イグレシアスを愛するところからも――「象徴的」な作家の代表格である村上春樹はフリオ・イグレシアスが嫌いだとどこかで書いていた――それは推測できる。
本作は、主人公のオヌマが様々な人物/人格を有しながらも”どこでもない場所に立ち”、多くの「顔」を持ちつつも(新たな)目標/目的に向かってそれらを統御していく。
それは狂気を孕み神経症的であるオヌマだけではなく、作家自身にも通じることである。
色々な「顔」を持つこと、(一人の人間でありながらも)様々な人間であること、これらが念頭にあるからこそ、この小説は「渋谷」という多くの人々が集う”混沌”に満ちた場所が舞台であらねばならないと思われる。
阿部和重『ABC戦争』
(2010/1/15)
便器が表紙の本って、あまりないのではないかと思う。
「ABC戦争」は実際に”戦争”が行われている訳ではない――と言うより、”中身”がない――のに、著者の手法(山形県を”Y県”としたり、あらゆる”情報”を読者に提示したり)によって特殊な物語に――「谷崎=ホークス主義宣言」!――昇華されている。
著書には「ABC戦争」を含む3作の話が収められているが、個人的に一番好きなのは「ヴェロニカ・ハートの幻影」である。