えー、”我”を失くす、なんて言い方をすることがあります。興奮した状態なんかを表現した言葉です。
言い換え ば、”自分”を失くす、ということになります。 を失くした ょう況に遭遇したそのとき、何を口走ってしまうか からないのがコ いですね。
が でないのですから。
えっ?
「さっきから、一部の文字が抜け落ちていて読みにくい?」ですって?
そ なこと、ないと思いますけどねえ。
「このやり方は、筒井康隆先生のパクリじゃねえか!」って?
ヒドイですねえ。
パクリじゃありませんよ、イ スパイアって言ってくださいよ!イ スパイア!
この回のタイガーア ドドラゴ は、咄嗟のときにホ ネを言ってしまう落語「厩火 」(うまやか )がテーマです。
第5話 あらすじ
この回はゲストの2名が中心のお話です。
上方まるお(古田新太)とまりも(清水ミチコ)。まりもまるおのコンビ名で活躍する、夫婦漫才師です。
かつて、まるおとまりもの仲人を務めた林屋亭どん兵衛夫婦(西田敏行・銀粉蝶)。
元ボクサーのまるおは、酒のせいで傷害事件を起こして捕まり、出所したばかりです。酒を飲むと狂暴になり、DVを受けていると言うまりも。
まりもは、彼女たち夫婦の漫才に感激した虎児(長瀬智也)とともに、古典落語「厩火事」の髪結いをヒントに、舞台上でまるおの本心を確かめることにします――
登場人物
■上方まるお(古田新太)
酒のせいで傷害事件を起こして、出所したばかりの漫才師。
妻のまりもと漫才のコンビを組む。
元ボクサーで3回捕まっている。
幼いころに両親を亡くしており、虎児とは同じ境遇だった。
芸人になるしかなかった人間。
■上方まりも(清水ミチコ)
まるおの妻。
酒を飲むと狂暴になるまるおのことが心配。
舞台での漫才中に、自分がガンであるとまるおを騙す計画を立てる。
■リュウさん(次長課長の河本準一)
青山で家賃6万5千円のボロアパートに住むチビT(桐谷健太)の押入れの下段に千円の家賃で暮らす住人。押入れの上段には、竜二(岡田准一)が暮らしている。
厩火事について
勝気でおしゃべりだが、純情なところもある髪結いのお崎が、亭主のことで仲人に相談にきている。
お崎が「夫婦ゲンカをして、もう別れたい」と言う。
毎度のことなので仲人も慣れている。
仲人「女房を働かせて昼間から酒を飲むような男は、ろくなものじゃない。お前さんの思うとおり別れておしまい」とたきつけた。
止めるはずの仲人にそう言われると、お崎は穏やかじゃない。
お崎「本当はとてもやさしい男なの」と亭主をほめ、「でも人情があるのかどうか、本心がつかめなくて不安」と打ち明ける。
そこで仲人は、人の心についての譬え話を始めた。
●仲人の譬え話① 中国の孔子の話
孔子が一頭の馬をとても大切にしていた。
あるとき、孔子の留守中に白馬のいる厩が火事になった。
孔子の家来は白馬を救おうとしたが失敗。
しかし帰ってきた孔子は家来の無事を喜び、馬のことは何も言わなかった。
仲人はお崎に、本当の人の偉さというのは、こういうときにわかるのだと諭した。
●仲人の譬え話② 瀬戸物好きの主人の話
とても瀬戸物にこっている屋敷の主人が、客に高価な瀬戸物を見せたあとで、妻に瀬戸物を片づけるよう言った。
妻は大事にそれを運ぼうとしたが、うっかり階段で足を滑らせ瀬戸物もろとも転げ落ちてしまった。
そのあとが問題。
主人は瀬戸物が割れなかったかどうかだけを気にかけ、妻の体を心配しなかった。
それが原因で妻は実家に戻ってしまった。
人づてに話が広まったので、主人はいまだに独り者とのこと。
仲人は「不人情とはこういうことだ」と言った。
するとお崎「うちの亭主も瀬戸物にこってるんですよ」と言いだした。
そこで仲人は、そいつを壊して瀬戸物と女房の体のどちらを気づかうか試してみろともちかけた。
お崎が家に帰ると、亭主が食事の支度をして待っていた。
お崎はチャンスとばかりに亭主が大切にしている茶碗を手に持ち、仲人に言われたとおりに足を滑らせたふりをして大げさにひっくり返ってみせた。
驚いた亭主は慌ててかけより、割れた茶碗には見向きもせずにお崎を抱え起こした。
ここでサゲ(噺の落ち)。
亭主「あぶねえ。どっか体にケガはねえか」
お崎「そんなにあたしの体がだいじかい」
亭主「当たりめえじゃねえか。お前がケガしてもしものことがあってみろ、明日から遊んでて酒が飲めやしねえ」
※参考文献『古典落語100席』選・監修者:立川志の輔(PHP文庫)
タイガー&ドラゴンの厩火事
こちらについてはここで書かずに、DVDやParavi(パラビ)などのサイトで実際に視聴していただきたく存じます。
決して、文章を書き疲れたからじゃあ、ございませんからね。
タイガー&ドラゴン第5話では、夫婦漫才師のまるおとまりもに例えた厩火事を、虎児が高座で演じています。
第5話は、ドラマ全体の中ではあまりパッとしない回だと思っていました。決して、つまらないわけではありません。
この回は、まるおとまりもの話が中心で、虎児や竜二の要素が薄めに感じていたからです。ですが、あらためて見て少し変わりました。
まるおの境遇を知って「自分の分身のよう」だと思った虎児。
第4話で、ヤクザの組長が落語もできることを知り、「林屋亭どん兵衛に弟子入りする必要なかった」虎児はそう言いました。
まるおはお笑い。芸人になるしかなかった人間です。
虎児はヤクザ。ヤクザになるしかなかった人間です。
自分と同じ境遇の人間と出会った虎児は、林屋亭どん兵衛の落語に出会って弟子入りをした自分の道、その出会いや道の先に光のようなものを見つけたのかもしれません。
そんな第5話「厩火事」の回でした。