えー、最近では買った物をそれより高い値段で売って儲けを得る人のことを「転売ヤ―」とか「せどり」なんていいます。
かつて、マルクスという偉い学者さんは、商品には二つの顔があると言ったそうです。
一つ目は使用価値。
これは、人間の様々な欲求を満たす力のことです。水であれば喉の渇きを潤すとか。食べ物には空腹を満たす力があります。
二つ目は価値。
こちらは、ある商品を別の何かと比べる「共通した基準」のことです。例えば、お昼のチャーシュー麺セットと月々の動画配信サービス。この2つは全く別の商品でありながら、どちらも1,000円という共通した基準があります。
※参考文献『NHK100分de名著 カール・マルクス資本論』斎藤幸平
――2007年
イギリスのロックバンド、レディオヘッドは『In Rainbows』というアルバムを出しました。レディオヘッドは『In Rainbows』のダウンロード販売に価格を付けませんでした。『In Rainbows』は、購入者が0円から好きな値段で価格を付けて買うシステム。買う側に値段を一任するという、画期的な方法で販売されました。
レディオヘッドの『In Rainbows』は音楽業界だけでなく、経済分野に向けて一石を投じるものでした。
……話がそれてますね。
タイガー&ドラゴン第7話は、「猫の皿」の一席です。
第7話 あらすじ
幼いころから落語の天才と言われた竜二(岡田准一)。彼が落語をやらなくなったのは、落語協会の会長・柳亭小しん(小日向文世)に反発したことが原因でした。
竜二(林屋亭小竜)に再び落語をやってほしい虎児(長瀬智也)。そんな中、柳亭小しんが審査委員長を務める、お笑いスカウトコンテストが開催されることになります――
登場人物
■谷中竜二(岡田准一)
林屋亭どん兵衛(西田敏行)の息子。
林屋亭小竜(こたつ)の名で、幼いころから落語の天才と言われていた。服が好きで、裏原宿で「ドラゴンソーダ」という店を営む。68万円もするヴィンテージジーンズを手にするのが夢。話がうまく、面白いことが好き。
■柳亭小しん(小日向文世)
落語協会の会長。
伝統を大事にしていて、最近では人情噺しかしない。竜二が落語をやらなくなった原因の男。
猫の皿について
骨董の掘り出し物などを見つけ、安く買いたたいて他の人に高く売るという商売が果師(はたし)。
一人の果師が、とある茶店で休んでいた。爺さん一人でやっているのんびりとした茶店だ。
茶を飲みながらなにげなくあたりを見ていると、一枚の皿が目に入った。商売柄、果師の視線がピタリと吸いついた。なんとこれが江戸でもなかなかお目にかかれない高麗の梅鉢という高価な逸品。たった一枚でも三百両はくだらない皿だ。
どうしてこんな茶店にあるんだと思ってよく見ると、皿に飯粒がついていてそばで猫が「ウンニャー」とのびをしている。
「ははん」と果師は喜んだ。
あの猫に皿で飯をやっているに違いない。
つまり茶店の爺さんは皿の価値を知らない。
こいつは大儲けできるぞ。
ちょいと考えた果師。
爺さんが近くにきたところを見はからって、ひょいと猫を抱きあげる。いかにも猫がかわいくて仕方がないという様子で懐へ入れ「この猫をくれないか」ともちかけた。猫のついでにエサ用の皿もという作戦だ。
爺さんはニコニコしながらもやんわりと断った。
爺さん「猫は十七、八匹飼っているがどれもかわいい。とくに婆さんに死なれてからは、家族同様で毎晩、家に連れて帰っている」
しかし、果師もそれくらいでは引き下がらない。
なにしろ三百両の皿が手に入るかどうかの瀬戸際だ。
果師「ただでくれとは言わないよ」
懐から小判を三枚、鰹節代にと、爺さんに手渡した。猫一匹に三両はとんでもない大金。三両なら文句はないと見え、爺さんは首を縦にふった。
ここまできたらこっちのもの。
内心ほくそ笑んだ果師はさりげない調子で「猫だっていつも食べなれた皿のほうがいいだろうから、この皿もついでにもらうよ」と、例の皿にひょいと手を出した。
ところが爺さん、あわてた様子で押しとどめ「皿だけは絶対にダメだとゆずらない」。
果師はガックリ。
もう猫なんかどうでもよくなり邪険に扱うと、「ギャーッ」と逆に猫にひっかかれたりして、弱り目にたたり目だ。
ここでサゲ(噺の落ち)。
果師「どうしてそんな高い皿で飯をやってるんだ」
爺さん「こうすると時々、猫が三両で売れます」
※参考文献『古典落語100席』選・監修者:立川志の輔(PHP文庫)
タイガー&ドラゴンの猫の皿
こちらについてはここで書かずに、DVDやParavi(パラビ)などのサイトで実際に視聴していただきたく存じます。
決して、文章を書き疲れたからじゃあ、ございませんからね。
第7話ではいよいよ、竜二が落語をやめた理由が明らかになります。
自分の好きな洋服を着たまま、お笑いスカウトコンテストで猫の皿を演じた竜二。彼をスカウトするのは、審査員のひとりである林屋亭どん兵衛。竜二の父親です。いつもお互いに文句ばかり言っている親子の想いが詰まった、とても良いシーンです。
竜二とどん兵衛は実の親子。
虎児とどん兵衛は、血のつながらない師匠と弟子です。(債権者と債務者でもあります)
竜二が林屋亭に戻ったとしたら、部屋が足りないという話になったとき、虎児はさりげなく言います。
「もともと他人だから、(林屋亭の家を)出てくのはかまわねえ」
それを聞いたどん兵衛。
「お前はね。ウチの敷居をまたいだときから、家族の一員」
タイガー&ドラゴンは、お金の価値を越えたあたたかさをくれる、素晴らしいホームドラマです。