手元の『古典落語100席』に「粗忽長屋」という題の表記はありません。
「粗忽長屋」の噺は、「主観長屋」という題で紹介されています。
本の解説部分に目を通してみます。
≪現代では『粗忽長屋』の題で柳屋小さんの十八番。
これを五代目立川談志が『主観長屋』と改め、演じている》
落語素人の私からすれば「えっ? 粗忽長屋じゃないの?」と思います。
ですが、本には「主観長屋」とある。
「粗忽長屋」と「主観長屋」は同じ噺です。
ですが、タイガー&ドラゴン第9話では「粗忽長屋」という題。
手元の本の選者である立川志の輔さんは「主観長屋」という題にしています。
主観と客観。
この噺は見事にそれを描いている古典落語です。
第9話 あらすじ
ドラマの単発スペシャル回にも登場した、田辺ヤスオ(北村一輝)が登場。
ヤスオはウルフ商会というヤクザに所属しましたが、組の金を使いこんでしまいました。
ヤスオを林屋亭一家に連れていく虎児(長瀬智也)。
女性陣はヤスオにメロメロの様子です。
そんな中、ヤスオを追うウルフ商会によって、竜二の洋服店「ドラゴンソーダ」が荒らされてしまいます。
周囲の人に迷惑をかけたことで、ヤクザと噺家の間で悩む虎児。
とうとう、ウルフ商会にヤスオが捕まってしまいました。
ヤスオを救出に行く虎児は果たして、どんな行動をとるのか――
登場人物
■田辺ヤスオ(北村一輝)
元々は虎児と同じ新宿竜星会のヤクザ。
現在はウルフ商会の目黒支部に所属。
すぐに金を使いこんでしまう。
女にモテる。
このドラマで一番ヤクザっぽい見た目だと思う。
■哲也(猪野学)
ウルフ商会のヤクザ。
いつも舎弟の泰次を連れていて、彼に横暴な態度をとる。
■泰次(少路勇介)
ウルフ商会のヤクザ。
兄貴分である哲也に対し、不満を抱えている様子。
粗忽長屋について
優柔不断な熊さんと、主観が強く物事を決めつける八つぁんが、同じ長屋に住んでいた。
ある日、八つぁんが浅草の観音様の近くを通りかかると人だかりができて、ワイワイガヤガヤやっている。
どうやら行き倒れがでたらしい。
八つぁん「そりゃ見たいな、ちょっとごめんよ」
好奇心旺盛な八つぁんは、どうにかこうにか人だかりをくぐりぬけて、行き倒れて死んでいる男のそばに行った。
死骸を一目見た八つぁんは熊さんだと思いこんだ。
「行き倒れの当人を連れてきやす」と役人に言い、長屋へすっ飛んで帰った。
八つぁんは長屋にいた熊さんを捕まえ、「おめえが観音様の脇で死んでたよ」と言う。
何のことだと、最初のうちこそ取り合わなかった熊さんだが、八つぁんに前夜の行動を細かく尋ねられているうちに、だんだんとその気になってきた。
なにしろ酒をしこたま飲んでベロベロになって帰ってきたから、はっきりとした記憶がない。
どうやって家へたどり着いたものかさっぱりわからない。
「悪酔いして死んだんだよ」
根が優柔不断だけに、八つぁんにそう言われると納得してしまい、二人で浅草へ。
死骸を処理する役人に対して、熊さんが自分の死んでいたことをしきりに謝ったりするものだから、役人はあきれかえり、行き倒れの死体を見せれば本人も納得するだろうと考え、覆った布をめくってよく見ろとすすめる。
だが、熊さんは遠慮して「死に目にはあいたくない」と、わけのわからぬことを言い、見たがらない。
見かねた八つぁんが、それじゃ役人が困るだろうと助け船を出し、ようやく布をめくって死人と対面することになった。
ところが、死体を見ても二人はとんちんかんなやりとりを繰り広げる。
熊さんが「自分より少し顔が長いようだ」と首をひねると、八つぁんが「夜露で伸びたからだ」と講釈をつける。
これで熊さんが「そんなもんか」と合点してしまうのだから始末におえない。
そのうちに死体を引き取ろうという話になって、熊さんが死体の頭を、八つぁんが足をかかえて持ちあげる。
ここでサゲ(噺の落ち)。
そこで熊さんが素朴な疑問を抱いた。
「抱かれているのは俺だけど、じゃ抱いている俺はいったい誰なんだ」
※参考文献『古典落語100席』選・監修者:立川志の輔(PHP文庫)
※『古典落語100席』では「主観長屋」の題で紹介されています
タイガー&ドラゴンの粗忽長屋
こちらについてはここで書かずに、DVDやParavi(パラビ)などのサイトで実際に視聴していただきたく存じます。
決して、文章を書き疲れたからじゃあ、ございませんからね。
粗忽長屋の男も相当そそっかしいですが、田辺ヤスオのそそっかしさも、かなりのものです。
「アンタ、やっぱヤクザなんだよ」
竜二(岡田准一)にそう言われた虎児(長瀬智也)は悩みます。
ヤクザのゴタゴタに立ち向かう虎児にどん兵衛(西田敏行)は言います。
「ヤクザとしてではなく、噺家として何とかしてきなさい」
虎児に救われたヤスオの言う「オマエはもうヤクザじゃない。噺家だ」のセリフ。
一連の出来事を彼なりの「粗忽長屋」として寄席で演じた虎児は、立派な噺家に見えました。