えー、年末から実家に戻って暮らしているんですが。
嫁さんと母親の間に立つ日々が続いて続いてもう――
男ひとり、鎹になって右往左往ですよ。
間に入るワタシにばっかり当たりがくるもんだから……
この鎹、サビついたり・ヒビ入ったりしてないだろうね。
えっ?
鎹って何だいって?
鎹(かすがい)は、コの字型をした釘のことですよ。
木材と木材を繋ぐ役割を果たすもんですね。
例えば、AさんとBさんの二人が仲違いしていたとする。
で、仲裁に入ったCさん。
Aさん␣Cさん␣Bさん。
鎹ってのはCさん、この␣にあたるもんですね。
何かと何かをつなぐもの。
誰かと誰かをつなぐもの。
ってか皆さん!
皆さんはこのドラマが始まった最初っからもう、鎹を目にしていたじゃないですか!
えっ?
まだわからないんですか?
それじゃあ、お見せしますね。
はいっ!
『タイガー␣&␣ドラゴン』
第11話 あらすじ
虎児(長瀬智也)が逮捕されて三年が経ちました。
林屋亭どん兵衛(西田敏行)は落語芸能協会を脱退し、なんと二代目・林屋亭小虎として高座にあがっていました。
出所した虎児は、銀次郎(塚本高史)を尋ねてヤクザに戻ろうとしました。
しかし銀次郎は「似合わないことするな」と虎児を追い返します。
ヤクザに戻れない虎児は、キャバクラの呼び込みとして街に立つことに――
登場人物
■山崎虎児(長瀬智也)
初代・林屋亭小虎。
逮捕から3年の服役を経て出所する。
3年という歳月は、かつての虎児を囲んでいた人々が変わるのに十分な期間だった。
■林屋亭どん兵衛(西田敏行)
二代目・林屋亭小虎。
かつての六代目・林屋亭どん兵衛。
彼が二代目・小虎を継いだのは、かつて竜二を追い出してしまった経験があったからこそだと思う。
■谷中竜二(岡田准一)
どん兵衛の実の息子。
真打ちに昇進し、七代目・林屋亭どん兵衛を襲名する。
子は鎹について
大工の熊五郎は、葬式の帰りに吉原で居続けをしたあげく、四日目にやっと家に帰った。
謝るどころか女郎ののろけ話をして、あきれた女房は子どもを連れて家を出てしまう。
熊五郎はその晩から吉原へ通いづめ。
年季明けの女を家へ引っ張ってきて後妻にするが、先妻とは大違い。
朝寝はするし飯は作らない。
そのうち女は出ていき、熊五郎は性根を入れ替えて仕事に精をだしはじめた。
三年がたち、生活は楽になった。
あい変わらず独り身を続けていた熊五郎は、仕事先で偶然に別れた子どもの亀吉と会う。
すっかり大きくなった息子に、母親のことを聞くと、再婚もせずに女手一つでがんばっている様子。
亀吉の話から母子で貧乏暮らしをしていることを知った熊五郎が言う。
「明日二人で鰻を食べにいこう」
息子の亀吉を誘い、小遣いをやる。
熊五郎「このことはおっかさんには内緒にしろ」
そう言い聞かせて亀吉と別れた。
はしゃぎながら家に帰った亀吉は、熊五郎からもらった金を母親に見つかってしまう。
なんとかごまかそうとするが、母親はその金を亀吉が盗んだものと思いこみ、金槌(かなづち)でぶとうとするので、とうとう父からもらったと亀吉は白状し、鰻屋に誘われていることも話した。
なぜか母親は怒りもせず、亀吉から熊五郎の様子を聞いてうれしそうだ。
翌日、熊五郎と亀吉が約束どおり鰻屋の二階で鰻を食べていると、鰻屋までついてきて外でウロウロしていた母親が我慢できずに入ってきた。
ひさしぶりの親子三人水入らず。
両親ともうれしくてたまらないくせに素直になれない。
場をとりつくろおうとする息子の努力でようやく落ち着いた熊五郎。
「亀吉をよくここまで育ててくれた」
熊五郎は女房に礼を言い、もう一度よりを戻してくれと頼んだ。
その言葉を待っていた母親は涙声になりながら言う。
「うれしいよ、お前さん。この子が行く先どんなに幸せになるかもしれない。三年ぶりに会って、元のようになれるのもこの子があればこそ。子どもは夫婦の鎹(かすがい)ですねぇ」
ここでサゲ(噺の落ち)。
すると亀吉が言う。
「あたいが鎹だって。どうりで昨日、金槌でぶつと言った」
※参考文献『古典落語100席』選・監修者:立川志の輔(PHP文庫)
※「子は鎹」は「子別れ」という上・中・下に分けられるほど長い話の下の部分
タイガー&ドラゴンの子は鎹
こちらについてはここで書かずに、DVDやParavi(パラビ)などのサイトで実際に視聴していただきたく存じます。
決して、文章を書き疲れたからじゃあ、ございませんからね。
・師匠が落語芸能協会を脱退して、二代目・林屋亭小虎を継いでいる
・竜二が真打ちに昇進し、七代目・林屋亭どん兵衛を襲名
・銀次郎は新宿竜星会の組長(笑福亭鶴瓶)の後を継いで、立派なヤクザに
・ソバ屋の辰っちゃん(尾美としのり)はブラジル人の女性と再婚
・元組長の謙ちゃん(笑福亭鶴瓶)は小春ちゃん(森下愛子)と再婚
虎児が出所するまでの3年間に色々な変化がありました。
最終話の見どころは、やはり虎児の再入門。
キャバクラでの、弟子と師匠の再開。
「やりてぇと思ってること、他人に言われるの、すっげぇウゼえ!」
虎児に向けられた竜二の言葉は、一度落語を辞めた彼だからこそ言えるものです。
刑務所にいる間に落語を覚えまくっていた虎児。
「弟子にしてくれ!」
初めて林屋亭どん兵衛の落語を聞いた後、虎児が心から笑わせてもらった後の言葉が繰り返されます。
キャバクラの中で。
竜二が鎹となって。
ですが、ドラマにはもう一つ、大事な大事な鎹となった人がいます。
虎児の師匠、二代目・林屋亭小虎(西田敏行)です。
初代・林屋亭小虎␣二代目・林屋亭小虎␣三代目・林屋亭小虎
師匠が自ら鎹となることで、彼と虎児は本当の親子になった気がしました。
なんて、野暮なことはもうやめましょう。
「タイガータイガーじれっタイガー!」
浅草の寄席では、笑いという鎹で繋がった人々の声が響き続けているのだから。